背中を押したオールスターゲーム
他社に例のない「産地特定革を使用したグラブ(和牛JBグラブ)」を作る!
そう目標に掲げたのが、約5年前。そこからが長かった。と山内氏は語る。
皮から宮崎産にこだわると言っても、何のツテも無い状態。会社は、オリジナルのトレーニング竹バットや、メイプルバットの製造・販売が波に乗り始めた時期だったため、とにかく忙しかった。
地元宮崎でプロ野球チームがキャンプを張る球場の管理も任されていることで、グラウンド整備を行う「グラウンドキーパー」の育成にも力を注ぐ必要があった。山内氏をはじめ、スタッフ一同が毎日全力で走り回っていた。「和牛JBグラブ」の構想は棚上げ状態。何も出来ず、気持ちが焦るばかりで、時間だけがただ過ぎて行った。
しかし、大きな転機が訪れた。「東京六大学野球オールスターゲーム」が2017年8月に宮崎で開催されることが決まり、明大野球部OBの山内氏は、大会の事務局長を務めることになったのだ。
「宮崎県産品を選手に記念品として贈りたい」 そんな想いが溢れ、棚上げにされていた「和牛JBグラブ」の製造プロジェクトを本格的にスタートさせる決心をした。会社は相変わらず忙しかったが、グラブ完成までに許される時間はこの時点で2年しかないという現実が、山内氏の背中を大きく押した。
宮崎産黒毛和牛の皮が最高級の「和牛革」になる
牛皮の仕入れ元を探す日々がスタートした。 ありとあらゆるツテを使った。
県庁に何度も足を運んだ。そうして見つけた業者から、「粘りのある、去勢した雄牛」の皮だけを買った。
自ら動いて掴んだ関係先から、大手メーカー品も受注している国内屈指の皮なめし加工の会社(埼玉県)に辿り着いた。仕入れた宮崎牛の皮を持ち込み、なめし加工を頼み込んだ。宮崎牛の皮が素晴らしかった事も功を奏し、加工を引き受けてくれることになった。
加工会社の高い技術で、宮崎産黒毛和牛皮の良さを最大限に活かすことが可能になった。一般的に、皮を加工する時に脂は取り除かれるのだが、和牛本来の柔らかさを残すために、敢えて脂を残した加工を施した。脂を含んでいることで、厚みのあるしなやかな「革」に仕上げることができた。また、皮質が良かったことで、キメの細かい滑らかな「革質」に仕上がった。
こうして宮崎産黒毛和牛皮は、最高級の和牛革に生まれ変わった。
「素材・加工・組み立て」全て「日本一」でやりたい
日本一の素材と加工技術を手に入れたボールパークドットコムの和牛グラブ製造プロジェクト。残すは組み立てだ。
グラブの組み立ては、皮革産業が盛んな奈良県の業者にお願いした。職人の技術が非常に高いと評判の会社だ。 「やるなら全てを日本一でやりたい」 こうして、こだわり抜いた「和牛JBグラブ」は、東京六大学野球オールスターゲームの開催直前に完成したのである。 今年、5年ぶりに開催された全国和牛能力共進会で、宮崎牛は史上初の3連覇を達成し、内閣総理大臣賞を獲得したことも、グラブ完成に大きな花を添えてくれた。
東京六大学野球オールスターゲームで贈られた「和牛JBグラブ」
「東京六大学野球オールスターゲーム」とは、東京六大学野球連盟から選抜された現役選手の混合チームによるエキシビジョンマッチである。直近の春季リーグ戦の順位の、1位、4位、5位の各チームからの選抜メンバーで1チームを編成、2位、3位、6位の各チームからの選抜メンバーで1チームを編成し対戦する。
選手の選考は、春季リーグ戦終了後に行われ、それぞれのチームから監督ならびに7人~8人の選手が選抜される。
2017年8月26日、宮崎市生目の杜運動公園にあるアイビースタジアムで、オールスターゲームは開催された。選抜メンバーは、SUNフェニックス(立教・早稲田・明治)とOCEANブーゲンビリア(法政・慶応・東京)に分かれて試合を行った。
河野宮崎県知事の始球式で試合開始!各大学の応援団やチアリーダーも駆けつけて、スタンドから熱い声援を送り続けた。地元宮崎の高校生によるブラスバンドで、各校の応援歌や校歌が演奏されると、ここはまさに神宮球場そのものの雰囲気となり、スタンドに応援に来ていたファンを大いに喜ばせた。
試合は、初回に4点を先制したOCEANブーゲンビリアが試合を有利に進め、後半に巻き返しを図ったSUNフェニックスを11対6で制し勝利した。
試合後に行われた歓迎レセプションの席で、「和牛JBグラブ」はついにデビューを果たす。各チームに記念品として贈られたのだ。
大学名が刺繍されたグラブを手渡すと、「とても良い革だ」と監督や選手に褒められた。と山内氏は嬉しそうに語った。 実際に送った記念品「和牛JBグラブ」はこれだ。
<早稲田大学>
<慶応大学>
<明治大学>
<法政大学>
<立教大学>
<東京大学>
次はプロ野球の世界へ!
山内氏の次の目標は、「日本のプロ野球選手にぜひ使ってもらいたい。そしてゆくゆくは、アメリカのメジャーリーガーへも提供していきたい!」 知人を介して、アメリカメジャーリーグのブルペン捕手に手渡した。それを見た他の選手が和牛JBグラブを実際にはめて使用したところ、大変気に入ってくれたそうで、「他社との契約上、今すぐには試合で使うことはできないが、とりあえず練習で使いたい」との申し入れを受けることができた。
フェニックスリーグで宮崎を訪れた日本のプロ野球選手にも試しに使ってもらったところ、大変評価が高かった。 メディアに大きく取り上げられたことで、プロトタイプはあっという間に完売した。
現在、メジャーリーグ、日本プロ野球関係者にモニターとしてテストを行っており、非常に良い評価を得ている。 「各方面の意見を踏まえ、和牛JB革の最終調整を行い、本格的な販売は2018年春を予定しています。勝負はこれからです!」 山内氏の挑戦はまだまだ続く。